科学・技術の発展が医学・医療の分野で著名になるにつれて,その発展を背後で支える事実の探求過程,す なわち仮説の探索・発見・検証に役立つデータの収集・整備・処理(解析)・評価(解釈) の過程が一段と重 みを増してきている. すなわち,医学統計学のニーズと役割がより広範に拡大している. コンピュータとその関連技術の発展とともに,種々のデータベースが構築され,その効果的な運用の必要 性が喚起されている.その中でも統計的方法論の効用が強く主張されている.
このことは医学・医療の分野でも例外ではない. 統計的方法が広範に活用されつつあることは喜ばしいことであるが,適用場面の広がりとともに,これまで顕在化していなかった問題点が表出している. 統計的方法論は,それが生成される基盤と活用される場面に依存して開発される.医学・医療の分野で も,その背景に立脚した統計的データ解析の過程が個々に構築されねばならない.
現実に目を向けると,最近の急激なコンピュータの普及・発展は統計的データ解析の即席化を生み,本来,意図した暖かい物語を提 供しない傾向にある.さらに,関連技術の発展で統計的方法論も変貌を遂げているようにみえる.従来の統 計的理論の一部が陳腐化しつつあり,データ適応型接近法やコンピュータ志向型接近法の出現は従来の厳格 で堅固な統計数理を実践的で「頭のいらない」形式に転換しつつある.
また,赤池の情報量基準AIC に代 表されるように尤度理論に基づくモデル志向型接近法が情報概念と結びついてかなりの勢いで版図を拡大 している.他方,一貫して徐々にニーズを増している方法もある.たとえばグラフィカル接近法である.
どのように,統計的方法論が精緻化されても,統計的データ解析の過程でそれが生産的な知見を生成しな ければ意味がない.探索的あるいは検証的な側面にしてもデータと仮説の間のやりとりで終始しているこ とが往々に見かけられる.その過程が生産性をもつのは「現象」との関係においてデータ解析結果が新た な知見を算出するときである.
この点に注目すると,最近の統計ソフトウェアの発展・普及はデータと解 析者(利用者) の距離を縮め,会話時間の延長と負荷の削減に寄与しているが,逆に現象とデータ,ひいて は現象と解析者を乖離させていることも事実である.現象を直接に観察することなく,「データベース」に 則って解析を進めいている統計家が多くなったことも問題である.本来,統計的データ解析の効用が解析 者の事象に対する観察眼によることは論をまたない.現象を知る努力の大切さを忘れてはならないと思う. 統計的データ解析の基本がデータであることに疑問の余地はない.
データの質が問題にされることがある が,良いデータとは必ずしも完全無欠の「きれいな」データを指していない.「汚い」データでもニーズさ え秘めておれば,生産的知見を開拓することができる. 医学・医療の情報解析の現場において,統計的方法の心象が「風化」しつつある危惧,および固有の実質 科学分野の人たちの智恵が「進化」しつつある状況のなかで,多くの人たちが医学統計学の諸問題に関心と 洞察をもち,「模索」と「提案」を積極的に行っていただきたいと思う.提案は授受の両者の双方向の動き として意味をもち,「関心は豊かな好奇心,および洞察は喜びを見出す力」といわれていることを信じたい. (定例シンポジウム2004「医療で必要とされる統計的基礎知識」巻頭言から)
このような趣旨のもとに本学習塾を提供しており,受講者の方々の一助になることを期待している.
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