~医療と新薬の飛耳長目(ひじちょうもく)~

第4回 『チョコレートボックスと薬の効果の評価』  (2010.11.15)

本エッセイで、ストレプトマイシンにまつわる話をしました(第2・3回)。ストレプトマイシンに限らず、それまで治療法が確立されていなかった病気に対する画期的な新薬は「ミラクル・メディスン(Miracle Medicine) 」などと呼ばれ、世界中から称賛されます。ただ薬の効果には個人差があり、たとえ同じ病気でもそれまで健康で初めて罹患した時期と、長く病気を患って体が肝臓や腎臓が弱ってしまった時期では副作用の出やすさも異なります。また、薬の代謝酵素をコードする遺伝子の違い(内的要因)や、薬の吸収や代謝に影響を与えるグレープフルーツジュースなどの食品を一緒に摂取した場合(外的要因)などさまざまな因子も薬の効果に影響します。
そもそも本当に薬が効くということはどういうことなのでしょう?『人生はチョコレートが入った箱のようなもの。開けて食べてみないとわからない。 (映画 フォレストガンプ※1)』という有名なセリフのように、実際に薬を服用してみないとわからないのも真実です。しかし、薬はチョコレートのように一度にたくさんの味(効果)を確かめることはできません。たとえ薬を飲んだ後で病気がよくなったとしても、薬そのものの効果はほとんどなく、もともと人間が持っている防御反応や薬を飲んだという思い込みが影響したかもしれません。後者を「プラセボ効果」といい、通常はいつまでも長続きしませんが、短期的には病気の改善効果全体の3~4割近くを占める場合もあります。
そこで、もしも自分がもう一人いたら(=One more heart※2)、異なる薬を同時に使用してどれがよかったかを比較すれば、正しく評価ができるという考えがあります。当然ながらそれはドラえもんのタイムマシンでもない限り無理なので、次善の方法として年齢や性別・病気の進行度など、病気に対する状況がほとんど同じグループを集め、評価したい薬や治療法をそれぞれ割り当てて、どのグループがより効果が高いかを比較すれば、「自分がもう一人いる」状態に似た状況が生まれます。何かと何かを比較して検討するという、比較試験については古くから記録※3がありますが、王様や上官が「あなたはこっちのグループ、君はあっち、、、」というように恣意的に指示するのではなく、かたよりができるだけ生じないような振り分け作業(無作為化)を行うことが、試験結果の信頼性を高める有効な手段となります。このため、英国で世界最初に無作為化比較試験が行われた1947年は、臨床薬理の歴史にとって大切なメモリアルイヤーと考えられています。


※1 映画「Forrest Gump」 Robert Zemeckins 監督、Tom Hanks、主演。1994年度 第67回アカデミー賞受賞作品です。映画のセリフでは、「Life is like a box of chocolates, you never know what you are gonna get. 」の部分で、主人公ガンプが母からの教えとして薫陶を受ける場面が印象的です。

※2 この言葉は中村雅俊さんの楽曲の題名でもあります。1990年味の素ギフトのイメージソングとしてテレビCMに流れ、当時大分文化会館で行われたコンサートでも演奏されていました。

※3 聖書中の食習慣の比較試験や、ローマ帝国(2世紀)の医師ガレノスの比較試験、近世では1747年に英国海軍医リンドによって行われた壊血病予防効果を調べるためのレモン・オレンジ試験が知られています。(新見三由紀 「ナースのための臨床試験入門」 医学書院 2010年、二宮睦雄 「医学史探訪」日経BP社 1999年)